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世界の歴史の中のネックレス

リボン?それともクラスプ?〜貴婦人たちを悩ませた2つの選択肢〜

前回前々回の続きです。
貴婦人たちの装いの必需品だったパールネックレスは、実は、18世紀ごろまでは留め金(クラスプ)がついていないものが多かったのです。

では、留め金のないパールネックレスがどんな姿に作られていたかというと、基本的には糸(稀に金属の線のこともありました)を通し、両端に金属の環(カン)をつけた形に仕上げられていました。そのカンをブローチや留め金に取り付けることもありましたが、一般的にはカンにリボンや糸を通す使い方が多かったようです。リボンで首や髪に留めたり、服に縫い付けたりして、パールネックレスを愛用していたのです。

17世紀ドイツで活躍した静物画の巨匠、ヒンツの絵には、リボンを結んだパールのネックレスが頻繁に描かれています(図1、部分)。また、同じ時代のオランダの画家、フェルメールの現存作品の半数以上にパールネックレスが登場しますが、そのほとんどにリボンがついています(図2、部分)。18世紀になると、こうしたリボンそのものを装飾の一部と考え、ドレスや頭飾りなどとリボンの色を揃えて楽しむ女性が増えたようです(図3、部分)

ところで、現代のパールネックレスには、取り外しが簡単なように、クラスプ(留め金)がついています。また、「まるで今のファッションスタイル?〜2000年前のネックレス〜」でご紹介したスーサ遺跡のパールネックレスにもクラスプがついていました。しかし、中世から近代までの数百年間は、パールネックレスとクラスプは別々の道を歩んでいました。

今、もしも誰かがあなたに 「クラスプをあげる」 と言ったら、どうでしょう? 「留め金だけ? そんなのもらっても、どうしようもないよ!」 と、困惑してしまうのではないでしょうか。でも、ほんの数百年前までは、「クラスプをプレゼントする」 ということは不思議なことでもなんでもなかったのです。

12世紀から13世紀にかけてのパリの工房では、すでにクラスプが数多く作られていたという記録があります。また、当時の王侯貴族の財産目録にも、数多くのクラスプの存在が見受けられます。この頃のクラスプは、ネックレスの付属品ではなく、ブローチに似たひとつのジュエリーアイテムとして確立されていたようです。

貴金属に彫刻をほどこし、あるいは貴重な宝石を嵌め込んだクラスプは、両側にネックレスのリボンや紐、あるいは小さな掛け金などをかけられるようになっていることが多く、中には布を留められるピンがついているものもありました。クラスプは、ネックレスを首に着けるためだけではなく、ドレスの肩に留めたり、髪のリボンに取り付けたりするためにも使われていたのです。
このように、装いにおいて重要な役割を担っていたクラスプは、美しさと機能性を兼ね備えたジュエリーとして、大切な人への贈りものにも用いられました。もちろん、子や孫へ、代々受け継がれて行ったのです。

現代では、ちょっと脇役に押しやられてしまった感のあるクラスプですが、ネックレスを選ぶ時には、クラスプに注目してみるのも良いかもしれません。